社会学的ラブソング・改

音楽と本とお茶と美味しいものと面白いもので出来ている。あんまりはてブされたくないです・・・。

伝説の編集者 坂本一亀とその時代

「伝説の編集者 坂本一亀とその時代」(田邊園子/河出文庫)読んだ。
伝説の編集者 坂本一亀とその時代 (河出文庫)
坂本龍一のお父上について、部下だった方がお書きになった評伝。
「音楽は自由にする」を買いに行った時、”坂本龍一追悼特集”の所にあった。
「音楽は自由にする」「SELDOM ILLEGAL」等を読んでいて、どんな方だったんだろう?とは思っていた。
表紙の写真を拝見すると、ああ坂本龍一のお父上だな、と思う。
当たり前ではある。
所所、幼い頃の坂本龍一の微笑ましいエピソードも出てくるので、興味ある方は読んでみたらよいと思う。
尚、此の本は「父が生きているうちに父のことを書いて本にして欲しい」と坂本龍一が依頼したのが発端なのだそうだ。
お父上が読まれた原稿の「最後のものであったろう」との事。

ハジメカラ売ルコトヲ考エルナ!イイモノハ必ズ売レルトイウ確信ヲモトウ!」(p.25)と、無名作家を発掘し、育てて世に送り出して行かれた。
が、作家にも部下にも相当な物を求める、良かれと思った物事は貫き通す、苛烈な方だったようである。
作家とは取っ組み合い、部下には「督促スル!督促センカッ!」と軍隊式命令。
作家も相当個性の強い方方だったんだろう、でも其れを上回る強さでいらっしゃったようだ。
著者が「押し入れに閉じ込めて外から心張り棒をかいたい、と何度か思ったものである」(p.140)と書いておられるのを読んでふふっとなった、振り返るから其の程度で済んだのかも。
正直言って、無茶苦茶である。
今だったらパワハラで炎上しそうな。
著者が「文芸編集者にとっては、多数の読者に乱読され、読み捨てられる本よりも、一人の読者でも、その人生に大きな影響を与えるような書物が出せたらどんなに嬉しい事か」(p.205)と仰る、其れが実現した、文学にとっては幸せな時代だったのかもしれない。
解説によれば当時、人々が読むものに飢えていたのだそうだ、御自身の文学への想いを作家に託して奔走、格闘してはってんな。
読んでいて、ただただ圧倒された。
正に”伝説”、というか、パワー。
強引だけどちゃんと結果残してはるもんな、坂本氏が居なかったら文学はもっとつまらないものばかりだったんだろう。
今、自分がほのぼのとエンタメ文学読めてるのも、遡れば坂本氏のお陰なんだろう。

「僕にとって戦後は余命にすぎなかった。多くの仲間が死んで、余命は彼らのためにも頑張らなければ」(p.64)
そういう方々が、戦後を支えて来られたのだろう。
自分の知らなかった、昭和の話。
こういう話はもっと知りたい、読みたい。
昭和の最後の12年くらいしか体験してないから。
だけど「戦後は~」というのは勘弁願いたい。戦争はもう無しでお願いしたい。

其れにしても、名前しか知らない、名前すら知らなかった作家の多い事よ。
読めるもんなら読みたい・・・が手と頭が回るだろうか(泣)。