社会学的ラブソング・改

音楽と本とお茶と美味しいものと面白いもので出来ている。あんまりはてブされたくないです・・・。

ひとめあなたに…

実家から「明日お豆さん持ってくわー」という趣旨の連絡があったが、当日「行かれへん」との事。
両親とわんこは元気そうだが親戚に何かあったのか、もしかして“試されて”いたのか・・・。

ひとめあなたに…」(新井素子/創元SF文庫)読んだ。

骨肉腫で余命幾許もない(万が一手術で治るとしても右腕を失いずっと頑張っていた彫刻が出来なくなる)彼氏・朗から別れを告げられた圭子。
そして巨大隕石かなんかが一週間後に地球にぶつかって御終い、というニュースが伝えられる。
滅ぶ前に、練馬から「あたしの為に」西鎌倉に居る朗に会いに行く圭子の物語と、途中出会う人達の物語。

世田谷の由利子、目黒の真理のようなクラスの主流ではない所に居そうな、うじうじ色々考え過ぎて独り善がり寸前(気持ちはすっげー分かるけども)の女の子描くの上手いよなぁ。
でも主人公はそういうタイプじゃない、すぱーっとしてる。

一部で話題だったチャイニーズスープ。
キツい。
グロじゃなくて妻の重たい独り善がりさが。
自分を偏執的に愛されるのも重たいけど、そうですらなくて自分の意思も示してくれない、ただ自分の理想に添わなければならないというのはしんどいよな・・・だからって他所の女に走るのもどうかと思うが。
10代の頃に呼んでたら「明弘酷い!」って怒ってたかもしれないが、そう↑思うのは自分が歳食ったからか、生活板・家庭板まとめとか愛読するような人間になってしまったからか。
もしかしたら此の世界で一番幸せだったのかもよ、由利子。
世界が滅ぶ、どう死ぬかも解らない恐怖より独り善がりに愛する夫を自分の中に入れる事に夢中で居られるのだから。
ああまで狂ってしまえるなら楽なのかもしれない。
他の人達も其其の自分の事で精一杯、世界がどうなっちゃっても自分はこうありたい、って押し通していられるなら「しあわせ」なのかな。
究極の「自分の中だけで自分の一生が完結してんの」(p.330)だ。
或る意味、世界が終わろうがどうなろうが変わらない自分の一生を貫き通せる人達ばかりなのかもしれない、此の物語で描かれるのは。

という色んな意味でどんよりする物語の最後は妙に清清しい。
狂ってしまう事が出来なかった(けど読んでる側からしたら十分狂ってるような、愛する人にひとめ会う為に服とハイヒール持って行っちゃうんだから)。
だけど全うする事は出来た。

世界がどうなるのかは知らない、知らなくてよいのかもしれない。
ただ、圭子も朗も良かったな、と。
そう思える物語で良かった。
圭子の「まだまだいろんな絵を描きたかった」に対して朗が「おまえ自身が、その絵なんだよ」とと告げる(p.336)、我我は其の素晴らしい、美しい、きらきら光る絵を見せて貰えたんだな。
だから清清しいと思えたのだ。

東さんの解説がぜんぜんありがちな解説じゃなく、新井さんへのラヴをセカイ系絡めつつ語ってはるんがなんか可愛らしい。

「本が好き!」にも書いた→ほい